東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第6章 大型研究計画の推進

6-2 地学関係の研究計画

(1)深海掘削計画(IODP/ODP/IPOD/DSDP)

深海掘削はマントルへの到達を目標とする「モホール計画」の提唱を起源としている.モホール計画では,1961年にカス1号という掘削船を用いて世界初の深海掘削を行ったが,約170mのコアを得ることしかできなかった.そこでモホール計画は,1968年からのグローマーチャレンジャー号を用いた深海掘削計画(Deep Sea Drilling Project: DSDP)に受け継がれ,海底の全地球的変遷を探求することを目的として世界中の海底に多数の掘削孔があけられた.

1975年から1983年までは,米国国立科学財団(National Science Foundation: NSF)主導の国際プロジェクトとして国際共同深海掘削計画(International Phase of Ocean Drilling: IPOD)が実施された.日本,イギリス,フランス,ドイツ等の先進諸国がそれぞれ同額の分担金を拠出して運営された.日本からは海洋研究所が代表として参加した.IPODにおける具体的なテーマは,プレートテクトニクスの証明,白亜紀の地球の状態の把握,小天体衝突による生物大絶滅の詳細な過程の解明等であったが,多くの成果をあげ,地球科学の発展において重要な役割を果たした.

1985年から2003年までは国際深海掘削計画(Ocean Drilling Program: ODP)が,アメリカの主導の下,22カ国による国際共同研究プロジェクトとして実施された,ジョイデス・レゾリューション号により100を超える掘削航海が実施され,中生代/古第三紀(K/T)境界における天体衝突の証拠や地下生命圏,ガスハイドレートの発見など地球・生命科学に関する様々な科学的成果をあげた.日本は乗船研究者のみならず,科学諮問組織の委員や航海の共同首席研究者を定常的に派遣し,科学提案評価の段階から総合的に貢献を果たした.海洋研究所は奈須紀幸教授,小林和男教授,平朝彦教授,末廣潔教授,玉木賢策教授を代表者として,日本における主導研究機関として機能し,シンポジウムなどを通じて内外の深海掘削計画の活動の推進に大きな役割を果たした.

統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean Drilling Program: IODP)は,ODP後の新しい計画として2003年10月より日本とアメリカによって開始された国際研究協力プロジェクトである.その後,欧州12カ国で構成される欧州海洋研究掘削コンソーシアム(European Consortium for Ocean Research Drilling: ECORD),中国,韓国,オーストラリア,インド,ニュージーランドなど25カ国が参加し,国際的な推進体制が構築さた.IODPは,日本が建造・運航するライザー方式の地球深部探査船「ちきゅう」(Chikyu)と米国が提供するノンライザー方式のジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし,欧州が提供する特定任務掘削船(Mission Specific Platform: MSP)を加えた複数の掘削船が使用されている.地球上の各地の海底を掘削することで,地球環境変動解明,地球内部構造解明,地殻内生命探求等の科学目標を達成するため,戦略的かつ効果的に研究を行うことが企画された.ライザー掘削により日本周辺の地震断層が初めて採取され,地震発生の仕組みの解明の大きな貢献があった.また,砕氷船を用いて北極海で初めての掘削が実行され,新生代後半に北極・南極はほぼ同じように寒くなっていったことが明らかとなり,今後の地球環境を考える上でも大きな成果をあげた.日本は乗船研究者のみならず,科学諮問組織の委員や航海の共同首席研究者を定常的に派遣するとともに,科学提案を積極的に提出した.評価委員会にも委員を送り出し,総合的な貢献を果たした.IODPはこれまでの深海掘削の発展形で日本が主導的役割を果たすこともあり,全国の大学や研究所の50余の組織が分担金を負担して,自主的にIODPの掘削科学計画の推進を企画する目的で,日本地球掘削科学コンソーシアム(Japan Drilling Earth Science Consortium: J-DESC)を組織した.海洋研究所はJ-DESCのIODP執行部会長を徳山英一教授,川幡穂高教授が勤めるなど主導的な働きをしてきた.

(2)国際海嶺研究計画(InterRidge)

InterRidgeは中央海嶺に関するさまざまな研究を推進していくための国際的な枠組みで1992年に始まった.主に国際ワークショップを通して研究の方向性や進め方を議論し,その内容に基づいて各参加国がそれぞれの国において研究プロポーザルを提出し,計画を実現していくという形をとる.また,研究計画(特に航海)の実現にあたっては,InterRidgeを通じて研究者や機材,情報の国際的な交換が行われている.現在の参加国は,正会員が日本,イギリス,アメリカ,フランス,ドイツ,中国の6カ国,準会員4カ国,客員19カ国である.日本は創設当時からの正会員であり,2000~2003年の4年間は本所に国際オフィスがあり,玉木賢策教授が国際議長を務めた.また,国際オフィス移転後も対応する国内組織であるInterRidge-Japanの事務局機能を本所で担っており,沖野郷子准教授が対外的に日本の海嶺研究者コミュニティを代表する役割を果たしている.日本の海嶺研究は,科学研究費補助金等による大型プロジェクトを中心に,大小さまざまな研究航海を実施することにより発展してきた.特にインド洋や西太平洋縁辺の海嶺系では20年間にわたり複数の国際航海を組織して研究を主導し,本所の地球物理・地質・海洋化学・微生物・底生生物の広い分野にまたがる研究者が参画している.また,2011年には“Ocean Mantle Dynamics: From spreading center to subduction zone”と題したInterRidge主催のワークショップを本所で開催した.