東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第3章 大気海洋研究所の設立への歩み

3-2 研究組織の改組

3-2-4 地球表層圏変動研究センターの設置

地球表層圏変動研究センターは,本所の設立と同時に発足した.その基本構想は本所の設立を準備する議論のなかで練り上げられたもので,海洋研究所と気候システム研究センターの統合によって生まれた本所において,両者の優れた相補的な研究力と研究資産の融合を意識的に進める中心的な場として設置された[➡3―1―3].「大気海洋研究所の基本理念・基本目標・組織の基本構想」には,本センターのミッションとして,既存の専門分野を超えた連携を通じて新たな大気海洋科学を開拓すること,研究系の基礎的研究から創出された斬新なアイデアをもとに,次世代に通ずる観測・実験・解析手法と先端的数値モデルを開発し,過去から未来までの地球表層圏システムの変動機構を探求することと記されている.準備の議論のなかで,本センターは,研究系での基礎研究をモデル開発に意識的に生かすシステムであると同時に,開発されたモデルを研究系での様々なレベルの現象理解に向けた研究に生かすシステムでもあるという点が強調された.また,こうした機能を効果的に発揮するため,各系の研究者が本センターに併任という形で関わるなどの工夫によってメンバーの流動性を維持し,新たな人員を獲得しやすくすることなども,重要な論点であった.

本センターの重要な研究課題は,古環境変動研究,海洋生態系変動研究,生物遺伝子変動研究,および大気海洋系変動研究であると設定され,それぞれに対応する4分野が設けられた.また本所から概算要求していた文部科学省特別経費事業「地球システム変動の統合的理解―知的連携プラットフォームの構築」が,2010年から6年間実施されることになり,本センターが中核となりこれを担っていくこととなった.本事業では,観測・実験による実態把握・検証および高精度モデリングの連携により,気候と海洋生態系の変動を解明すること,そして,全国の大学等の研究者が共同でモデルと観測システムを開発・利用し,関連諸分野の知識をモデル化・データベース化し,客観的な共通理解を促進するための知的連携プラットフォームを構築することを目指す.この事業の計画では,本センターの各分野での重要な課題として,以下のような事項が挙げられた.(1)古環境変動研究分野:古海洋・気候復元解析,全球古気候モデリング,アイスコア・堆積物や生物試料の微量元素同位体比測定,(2)海洋生態系変動研究分野:海洋生態系モデリング,海洋資源変動,気候・生態系相互作用,炭素循環とそれに関わる生物活動,(3)生物遺伝子変動研究分野:エコゲノミクス・バイオインフォマティクスの方法論確立,生物多様性および機能遺伝子データベースの整備・モデル化,(4)大気海洋系変動研究分野:高分解能大気海洋モデリング,領域モデリング,大気海洋系に関わる大気化学,雲・エアロゾル・汚染物質の物質同化,海洋微細構造観測とモデルへの取り込み.現在,この計画をも踏まえて,鋭意,研究が進められている.

組織統合のシナジー効果を意識的に生む場として,海洋研究所と気候システム研究センター両組織から人員を出して本センターを立ち上げるという当初の方針通り,前者から木暮一啓教授が,後者から中島映至教授(初代本センター長)が専任の教授として着任し,また前者から横山祐典准教授が,後者から羽角博康准教授が併任教員となって本センターは立ち上がった.さらに,学内的な措置によって本センターに付けられた教授2,准教授2の時限付きポスト[➡3―1―3]については,2010年11月に教員採用可能数のポイント管理[➡3―3―1]についての基本的な方針が所長裁定によって定まったことを受け,各系の協力を得て任期を付さない形で公募が開始された.その結果,2011年度に入って,5月に伊藤幸彦准教授,7月に岩崎渉講師,10月には佐藤正樹教授が順次着任しており,本センターの陣容が整いつつある.

発足してまだ日が浅い本センターでは,組織や活動を本格化していくために,教員会議や地球表層圏変動研究センター運営委員会などで,研究課題や研究体制について検討を続けている.また,年に数回,戦略セミナーを開催し,研究展開の戦略について,全所的な議論の場を積極的に提供している.