東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第3章 大気海洋研究所の設立への歩み

3-1 大気海洋研究所の設立

3-1-1 設立の背景

2000年代も後半になると,法人化した東京大学の第1期6年の「中期目標・中期計画」期間も半ばとなり,海洋研究所でも気候システム研究センターでも,その活動や組織のよりダイナミックな展開の必要性が強く感じられるようになってきた.

2007年2月よりIPCC第4次評価報告書が順次公開された.2007年7月には海洋基本法が施行され,引き続いて海洋基本計画の策定作業が進み始めた.こうした中で,社会では海洋,気候,地球温暖化などの問題への関心が高くなってきた.海洋研究所は,白鳳丸および淡青丸が2004年4月に海洋研究開発機構に移管された後も,学術研究船の全国共同利用の管理運営には引き続き全力で取り組んできていた.2008年3月に実施した海洋研究所の外部評価(準備委員長:竹井祥郎,外部評価委員長:Gordon Grauハワイ大学教授)では,海洋研究所の研究教育活動および共同利用運営活動は高く評価された.しかし一方,気候変動などの全球的課題への取り組みが必ずしも十分でなく,より幅広く活動を展開し,さらに強いリーダーシップを発揮すべきだという指摘も受けた.法人化までは研究船を保有・運航していた本所は,自らの活動の重点を,研究船を活用したフィールド研究に置いていた.地球環境問題など全球的な課題の研究には,数値モデルによる大規模シミュレーションなどが重要な手法となるが,そうした方向への研究展開はあえて控えていたのである.学術研究船の移管以後も,こうしたスタンスを取り続けていてよいのかという指摘であり,新たな状況の中で,本所はその使命を再点検し,より幅広い活動の展開を図ることが必要となってきた.

国立大学が法人化した2004年4月から数年を経たこの時期には,大学附置の研究所・研究センターについての議論も活発になっていた.文部科学省の科学技術・学術審議会の学術分科会研究環境基盤部会では,全国共同利用システムの共同利用・共同研究拠点システムへの転換に関する議論が始まっていた.

学内では,2007年5月に教員採用可能数再配分申請の受付が開始された.運営費交付金の年1%の減(効率化係数)に対応して教職員の採用可能数を毎年減らしていたが[➡2―3資料1―4],これだけでは本学の研究科・研究所・研究センター等の活力が落ちるだけである.そこで,戦略的な教育研究展開計画に基づく教職員ポストの再配分要求を各部局から出させて,優れた計画を策定しているところに削減分の一部を再配分しようという方策である.このような募集への申請には,組織改変をも伴った大胆な戦略的計画を基礎にしていることがどうしても重要となってくるが,本所ではこの面における強化の必要が痛感されることとなった.6年時限であった先端海洋システム研究センターの終了期限も近づいていた.さらにこの時期には,技術系職員の組織化に関する議論が全学的になされていた.20名を超える技術系職員を有する本所でも,この問題に関して検討をしてきたが,組織化を具体的に進めるためには研究所組織の柔軟な改変が不可欠であることが明らかになりつつあった.

一方,気候システム研究センターでは,大学に基盤を置いた日本で唯一の気候系研究組織として,国内外の気候研究・プログラムにおいてその責任を果たし続けるには,あまりにも組織の規模が小さいことが問題となってきた.すなわち,本センターが構築してきた気候モデルは大きな資産であり社会的関心も高いが,国家プロジェクトや社会的関心に対応しつつ,モデルのさらなる複雑化・高度化が求められる状況において,研究の先端を切り拓き,有能な人材を多数輩出するという責務を完遂するには組織規模が小さすぎる.この間の海洋研究開発機構や国立環境研究所でのこの分野の増強に照らすと,このことはより鮮明になる.この点は本センターの2007年12月の外部評価でも指摘されていたが,国の財政事情の悪化もあり,概算要求を通じた本センターの拡充は非常に困難な状況となっていた.さらに2003年から2004年にかけての法人化前後には,学内で全学センターをめぐってさまざまな議論が起こった.すなわち,法人化後の全学センターを「revenue(歳入)センター」と見なして自助努力を促し,外部資金を獲得する能力が低い場合は長期的にその存在を検討してはどうかといったことや,全学センターの時限更新に関して見直してはどうかといったことが議論された.結果的には,本センターの時限条項は外れることになったが,いずれにしても法人化後,全学センターは不安定な立場に置かれた.こうした背景の中で,気候システム研究センターでは,数年後に第2期となる「中期目標・中期計画」への対応や新しい共同利用・共同研究拠点への対応について,新たな検討が必要となっていた.