東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001 東京大学 大気海洋研究所50年史 1992-2001

第1章 気候システム研究センターの設立と発展

1-2 気候システム研究センターの第2期への発展

気候システム研究センターの第2期は,2001年4月から6研究分野をもって10年時限で発足した.2004年4月には国立大学法人化により,国立大学法人東京大学の全学センターのひとつとして本センターが発足した.この段階で本センターの設置期間に関する時限条項が外れた.2005年3月には柏地区の総合研究棟への移転が行われた[➡1―3].

この時期は大学内外ともに大きな環境の変化があり,その分析と新たな研究の方向性を探る時代でもあった.2006年6月には,千葉県舞浜にて本センターの拡大研究協議会と主催シンポジウム「我が国の気候学研究と重点化政策に関する検討会」が開催され,北海道大学,東北大学,東京大学,千葉大学,名古屋大学,京都大学,九州大学,気象研究所,気象庁,国立環境研究所,海洋研究開発機構,総合地球環境学研究所から36名が参加した.2007年12月には大学法人の第1期中期期間の終了を前に,第2回外部評価が行われたが,この時点での陣容は,気候モデリング研究部門として,大気システムモデリング分野(高橋正明教授,今須良一准教授),海洋システムモデリング分野(遠藤昌宏教授,羽角博康准教授),気候システムモデリング分野(中島映至教授,阿部彩子准教授),気候変動現象研究部門として,気候変動研究分野(木本昌秀教授,佐藤正樹准教授),気候データ総合解析分野(高薮縁教授,渡部雅浩准教授)のほか,外国人客員2名,特任助教4名,任期付研究員26名,大学院生36名,支援スタッフ18名という陣容であった.

この期間には,国際的にはIPCCの第3次報告書(2001年),第4次報告書(2007年)が作成され,社会的にも地球温暖化が大きな課題として認識される時代に入った.これに呼応して,2002年には地球シミュレーターが海洋研究開発機構において本格稼働し,「人・自然・地球共生プロジェクト(RR2002)」(2002~2006年),「21世紀気候変動予測革新プログラム」(2007~2011年)によって,わが国の気候モデリングも本格的な応用の時代に入った.その中で,世界気候研究計画(WCRP)の「結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP)」等に貢献できる実戦むけのモデル開発とデータ作成が進行したと言える.

この時期は学内の連携も進んだ時期であった.2003年から地球惑星科学専攻を中心に実施された21世紀COEプログラム拠点形成「多圏地球システムの進化と変動の予測可能性―観測地球科学と計算地球科学の融合拠点の形成」に参加し,大学院教育および,他分野研究者との連携に貢献した[➡4―2―3].本学の領域創成プロジェクトにおいては,柏キャンパス内の4センター(本センター,人工物工学研究センター,空間情報科学研究センター,高温プラズマ研究センター)提案の「気候・環境問題に関わる高度複合系モデリングの基盤整備に関するプロジェクト」(2005~2010年)を実施し,気候モデリングの応用研究を行った.

大学院教育に関しては,理学系研究科地球惑星科学専攻のみならず,新領域創成科学研究科自然環境学専攻にも協力講座教員,兼担教員を出し,学生の受け入れを行った.また2007年からは,文部科学省の全国共同利用・共同研究拠点の枠組み作りと関連して,全国の気候研究にかかわる4センター(本センター,名古屋大学地球水循環研究センター,東北大学大気海洋変動観測研究センター,千葉大学環境リモートセンシング研究センター)共同の特別教育研究経費(研究推進)事業「地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成」をスタートさせた.アウトリーチ活動にも力を入れ,毎年1回の公開講座,サイエンスカフェなどを開催した.また,次世代の研究者を育成するために,東アジアにおける気候モデリンググループ(中国大気物理研究所,南京大学,韓国ソウル大学,延世大学,台湾国立大学,国立中央大学等)の大学院学生の教育と交流を目的とした大学連合ワークショップ(University Allied Workshop)を毎年,日中韓台持ち回りで開催した.また,本学がマサチューセッツ工科大学,チューリヒ工科大学などと実施しているAlliance for Global Sustainability(AGS)に参加し,持続的社会の形成のために気候モデリングの知見を活かす努力を行った.

これらの活動を通して,本センターは気候研究コミュニティの中で指導的役割を果たす組織に成長した.すなわち,この時期には,気候モデルが日常的に研究に用いられ,それらから豊富な計算結果と解析結果が生まれ,それに伴って多くの研究成果と次世代を支える若手研究者が成長していった.